宮崎県東臼杵郡椎葉村は面積537.29平方キロメートル、人口約2,150人の村で、全国の村の中で5番目の広さを誇り、九州山地中央部の標高1,000から1,700メートル級の山々に囲まれた日本三大秘境の一つに数えられる。同村の不土野地区尾向地区には日本で唯一焼畑農業を継承している農家があり、主産業である農業と林業の象徴として国内外から注目される。椎葉の焼畑は縄文時代から続くとされ、2015年12月に高千穂町・日之影町・五ヶ瀬町・諸塚村とともに「高千穂郷・椎葉山地域」として世界農業遺産に認定された際にも高く評価された。手法は急斜面の森林を伐採し、乾燥させた後に火入れをして雑草や害虫、病原菌を抑え、地表に灰を肥料として残す。翌春にヒエ・ソバ・アワ・キビ・大豆などを混植し、4年程度耕作した後は20年以上かけて自然に森林に戻すという循環型農法で、化学肥料に頼らず生物多様性を維持する持続可能な山村文化のモデルとされる。地元では焼畑蕎麦苦楽部が中心となり、代表の椎葉勝氏らが作業を守り、世界農業遺産10周年の2025年には約60人が集う記念イベントを開き、熊本県からの登山客が飛び入り参加するなど交流人口の拡大に取り組んでいる。鹿児島県から9年前に移住した佐々木さつきさんのように火入れや加工品作りに携わる外部参加者も増え、代表の息子竜也氏が後継を志すなど世代継承も模索される。村は「日本で最も美しい村」連合にも加盟し、焼畑は椎葉神楽など重要無形民俗文化財と並ぶ登録地域資源と位置づけられ、伝統的建造物群保存地区の十根川集落や800年と伝わる八村杉などとともにエコツアー客や海外研究자를引き付ける。科学的根拠のない時代に確立された先人の知恵を再評価する動きとともに、過疎化の中での担い手不足という課題を抱えつつも、山椒バターサンドなどの新商品開発や椎葉村交流拠点施設Katerieでの情報発信を通じ、伝統農法の持続が図られている。